RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
SPIEL COFFEE
東京都杉並区 2024 /Feb/ 15 updated
通りを歩いていると街角にまるでイギリスのパブやビストロのような佇まいのカフェが見えてきました。『SPIEL COFFEE』はこれまでに、テーマパークのキャストをはじめ、コーヒーショップ、大手のコーヒー・メーカーなど、接客とコーヒーにまつわることを仕事にしてきたMAKIさんのお店。彼女は高校生の頃からの夢であったお店を新高円寺に開きました。
千駄ヶ谷にあったチャイナ食堂のエントランスに強く惹かれて知った『DEN PLUS EGG』に、物件探しと並行して相談を開始。最初の打ち合わせで訪れた『D+E MARKET TOKYO』ショールームの白いアンティーク扉や内装の雰囲気も気に入り、DEN PLUS EGGへの関心はさらに高まりました。
MAKIさんはほかにも何社かにお店の設計の相談をしました。するとどの設計施工会社もそろって「店舗に無垢木の床材はやめた方がいいですよ。ピンヒールの跡がつき、穴が開きますよ」と言われたそうです。ところがMAKIさんは、「穴が開いて何が悪いのかしら、と思ったんです」と言います。「それこそがお店の歴史で、経年変化による床材の味わいを楽しめると思うんです、海外の古い店はみんなそうで、ピカピカは面白くないんです」。それはまさにDEN PLUS EGGと同じ価値観でした。

そしてようやく幹線通りの角に味わいのある建物を見つけました。10年間使われていなかった角地の建物に一歩入ったとき、すごくいい“気”を感じたそうです。「ここなら自分がイメージしたお店ができそう」という直感に従って物件を決め、DEN PLUS EGGとの店づくりがスタートしました。外観のイメージのもとになったのは、ロンドンのとあるコーヒーショップの味のあるファサードの写真で、古びた木枠のショーウィンドウやドアはMAKIさんが好きなテイストでした。そのお店の写真を見せながら「まずTO-GOのカウンターをつくり、店の外にベンチを置きたい、そして店を入ったところにカウンターを置きたい」というレイアウトのイメージを伝えました。しばらくしてできあがってきたパース図には、MAKIさんがイメージしていた通りのヨーロッパの街角を感じさせるファサードが描かれていました。
店の外観は全体をブラックにし金色の文字で店名を描き、ランプや無垢のオークの扉の真鍮の色が美しく映えます。ドアを開けて目に入ってくるのが、オリジナルの造作カウンター。正面にはイギリスの家の壁に使われていた古材のモールディングを貼り、天板も古材を再利用。カウンターの奥の壁にはグリーン・イエローのアルチザンタイルを貼り、床は黒いセメントタイル、壁や天井はダーク・グリーンで仕上げました。テーブルはいろいろな店に行って自分が心地よいと思ったサイズの45センチの丸テーブルをオリジナルで作成を依頼。チェア類はDEN PLUS EGGがヨーロッパで買い付けたものをそろえました。
入口横の5枚の細長いガラス窓は、実は元々この建物にあったもの。大きな窓やドアにしたらという意見もありましたが、やはり今ではもう新しくつくることができない古い窓を残し、ブラックに塗ると店全体の雰囲気にしっくりと馴染みました。1階の奥には古材でベンチをつくり、シートの下を収納スペースに。2階は無垢オークのフローリングにし、3階へ通じる折り畳み式の階段はそのまま下したままにし、天井からの採光を取り込みました。その階段の金属パーツの古びた感じもMAKIさんは愛着を持っています。

DEN PLUS EGGの担当・吉田さんと価値観が近かったこともよかった点だとMAKIさんは振り返ります。図面を見ながら「『ここはどうしましょうか』など、その場で決めていったこともありましたが、ある程度の大枠を話せばあとの細かいことは吉田さんなら信頼して任せられると感じたんです。壁の色などは一緒に決めましたが、アンティークドアなどの選択はおまかせしました」。
「お客さまから『この店の窓から外を見ているとイギリスの通りにいるような気分になりますね』と言われたときはうれしかったですね」。コーヒーを飲み、お店の写真を撮っていかれる方も多く、お店に入った瞬間に別世界に連れてこられたような感覚を感じているのでしょう。テーマパークで人々に現実を離れて夢を与えることを仕事にしていたMAKIさんにとっても、『SPIEL COFFEE』がつくりあげた世界観がお客さまに喜んでいただけることがほんとうにうれしいと言います。
コーヒーは10種類の豆をカウンターに並べ、MAKIさんが一杯ずつペーパードリップで淹れています。お勧めの中米のコーヒーは果実感のあるフレッシュな味わいです。コーヒーをつかったカクテルやワッフルなどのスイーツも揃えました。コーヒーミルが豆を挽く音が聞こえると、店内には甘やかなコーヒーの香りが漂ってきました。
SPIEL COFFEE
東京都杉並区梅里2-1-3
入口に対して斜めにカウンターを設置することで、空間に広がりを出す。
ベンチシートの背もたれはイギリスの住宅の腰壁モールディングを再利用。
ペーパードリップのコーヒーをロックグラスで。
1階の床には黒のセメントタイルを敷き店全体が締まって見える
2階の床は、無垢のオーク材のフローリングで柔らかな印象に。
2階の部屋の奥から階段を臨む。
3階への折り畳み式階段は下したままにし上階からの自然光を取り入れる。
丸テーブルは小ぶりな直径45センチで空間を広く見せる。
最初にあがってきた店の外観のパース図は、壁に額装して飾る。
カフェの最初のイメージの元になったロンドンのカフェ。
階段をあがるとヴィンテージの扉が見えるのも気分を盛り立ててくれる。
トイレの中もお店と同じ世界観を。




